お金で買える美しさとそれに伴う幸せについて

お題「これ買いました」

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高価な基礎化粧品を買ってしまった。化粧水から乳液からクリームから一式購入したら20,000円近くになった。たっか~と思った。なんだか気が引けたので夫に、高価な基礎化粧品を購入した、すまない、と言ってみた。そうしたら、あんたの金なんだから好きに買えばええのにと言われた。いい奴だ。

今まではドラッグストアで適当に良さそうな化粧品を使っていた。口コミサイト的なところで調べればいくらでも安くて効果が高い商品を探すことができる。いろんな人がこのお値段で信じられない、すごくコスパが良いです、などと激賞しているし、実際に使ってみると、確かにお肌がしっとりしたり、つやっとしたりするので、まあこれで十分だわ、と思っていたのだ。

あれ、と思い始めたのは40の声を聞いたあたりからだ。ある寒い日に屋外の手洗いに行った。屋外なので照明が薄暗い。手を洗ってふと鏡で自分の顔を見て本当に驚いた。

顔が灰色なのだ。

え、と思って思わず鏡をこすってみた。鏡が少しきれいになったので、私の灰色の顔がさらにくっきりと映った。灰色の肌に濃灰色のそばかすが浮かんでいる。

その後室内で暖まったら顔色は灰色ではなくなったけど、それ以来なんだか顔がどんより曇って薄暗く感じるようになった。まあ、性格も薄暗いからちょうどいいか、と思えるほどには達観していなかったので、それからはスキンケアに気を使うようになった。化粧水、乳液、クリームまでしっかりお肌に塗るのだ(それまでは化粧水しか使っていなかった)。少しマシになったような気がしたけど、大きな改善は見られない。もう仕方ないのか、老化現象だしね、これが生物としての自然な姿だよ、などと思ってみたけれど、やはり煩悩を捨てきれないので、美容情報をいろいろチェックするようになった。

ある時、高価な化粧品会社がお試し価格でお試しセットを販売していた。あ、この値段だったらいいや、と思って買ってみた。

びっくりした。

肌が美しくなったのだ。私は今まで「肌が美しい」ということを正確に理解していなかった。時々電車などでとても肌の美しい人を見かけるが、その美しさはあくまで鑑賞する対象物にすぎない。実際にその肌を自分の骨格と筋肉の上に纏うというのはどういうことかわかっていなかったのだ。今までの私の肌は暗くしぼんでかさかさしていた。今の私の肌は明るく張りがあって潤っている。そう、この美容関係の諸々で頻繁に目にするキーワード、肌が「明るい」「張りがある」「潤う」というのがどういうものなのかを実体験として納得することができたのがなによりの収穫である。肌を認識する際の解析度が格段にアップした感覚がある。

この化粧品を使い続けたい、と強く思った。

というわけで、高価な基礎化粧品を購入したのだった。そして私は毎日あー肌が美しくなった、とうっとりしている。ただし、あくまで当社比なので、同居人たちに「私の肌はとても美しくなったと思う」と申告しても「そう??」という反応だ。確かに私の顔を一番よく見るのは他ならない私自身なので、他の人が見ても気づかないに違いない。他人は人の顔なんてそんなしっかり見ているものではない。でも他ならない私自身は毎日鏡を見るたびに幸せなのだ。私が私を幸せにするのだから、よい買い物をしたと思う。

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砂の数ほどの 美しさのうち ひとつだけ