新年の活気

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新年の早朝、家の前の道路が騒がしいなと思ったら、初日の出を見に行くために海に向かう人たちの声だった。我が家のベランダに面している幹線道路をまっすぐ行くと3分ほどで海岸に突き当たるのだ。上着を羽織ってベランダに出てみたら、海岸沿いにたくさんの人が並んでいるのが見えた。しばらくすると、海と空が薄赤と薄紫を混ぜたような色合いに明るくなって、ベランダからはちょうど見えなくなっている東側から日が昇っているようだった。人波がすこし揺れているようにも見えた。空が明るさを増すにつれて、海岸から人が戻ってくる。背中を丸めて満足そうに笑っているカップルがいる。親に手を引かれた小さな子どもがいる。犬を連れた老人がいる。友達と自転車で帰っていく中学生くらいの男の子がいる。みんな家に着いたら布団に入ってもう一度寝るのだろうか、それとも少し早めの朝ご飯を食べるのだろうか。新年の朝は近所に住んでいたはずなのに初めて出会った人たちの懐かしい活気に満ちていた。

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ベランダと 人波の向こう 初日の出

本と「ときめき」

お題「我が家の本棚」

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我が家には本棚が9台あります。(今、9台と書くにあたって、本棚の数え方が思いつかなくて検索しました。本棚は一台、一本、一架と数えるそうです。最初9個と書いて、いやそれはないだろう、と思ったのですが、ちゃんと調べないと己の無知を晒すことになるところでした。)一人目の子どもが小学校に進学する際に、教科書や副読本や学習に必要な図鑑、事典、辞書類を収納するために購入した高さ160センチ強のずっしりした木目調の本棚(通信販売のニッセンで2万くらいでした。)1台、独身時代に使っていた無印良品のパイン材ユニットシェルフ高さ120センチ・幅86センチ・奥行26センチ(を本棚として使用)3台、二人目の子どもが生まれて引越しをする際に部屋が広くなったことをいいことに調子に乗って購入した同じく無印良品の同ユニットシェルフ高さ120センチ・幅86センチ・奥行き39.5センチ2台、文庫本収納用のもの3台。改めて数えてみると、我が家はその専有面積に対してずいぶんたくさんの本棚を所有しているな、という印象です。しかし、さらに驚くべきことに、現在本棚が全く足りておらず、つまり我が家の本棚に収まりきらなかった本がクローゼットや学習机の下に押し込められているのです。

家にあふれる「もの」を「ときめき」を基準に取捨選択する「片付けの魔法」(この「片付けの魔法」がブームになる10年ほど前に『「捨てる!」技術』という新書がベストセラーになりましたが、「もの」があることこそが豊かさの証であるという価値観はそのころから時代遅れになりつつあったのでしょう。)を提唱し、多くのベストセラー書籍を上梓し、今はアメリカで活動されているこんまりさん(近藤麻理恵さん)によると、本を捨てるには、本棚の本をすべて取り出し床に置いて、1冊1冊手に取りながら「ときめく」か「ときめか」ないかを確認すると良いのだそうです。また、この時本のページをめくるとついつい読みふけってしまうので、手に取って数秒で「ときめき」を見極めるのがポイントだそうです。

確かに「ときめく」本だけが収納された本棚はすっきり見栄え良く、またそのような本棚のある部屋で生活したら思考もすっきり明晰になるのかもしれません。しかし「ときめき」という幼稚で自己愛が強いイメージがある言葉でもって、知識と理性の象徴である「本」の要不要を判断しようとすることには大変な違和感があり、私は好きになれません。

わたしは本に対して「ときめき」などと言う思い入れはありませんが、我が家の本棚と本棚以外に収納されている本は、それを読むことによって、私の中の何かが決定的に変わってしまったり、逆に、私は何も変わる必要はないなと納得したりしたわけなので、それらは私自身の何パーセントかを形成していると思っています。私のいいところも悪いところもおかしなところもつまらないところも、本を読むという経験がほんの少し影響しているので、まあ、本は私の一部であるという言い方もできるのではないでしょうか。

私は私に「ときめいた」りはしませんが、かといって「ときめか」ない私自身を断捨離しようなどとは当然思わないわけで、それは本についても同じことが言えるのかもしれません。

追記:私の文章がダラダラと読みにくいのは、「ときめき」度外視の本が雑然と並べられている本棚に囲まれて暮らしているせいかもしれません。

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本は朽ち 屍は腐り 春が来る

 

単調な生活とちょっといいこと

今週のお題「最近あったちょっといいこと」

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変化に乏しい生活を送っているのに、最近あったことも、ちょっといいこともすぐに忘れてしまう。刺激的でイベント尽くめな毎日なら、楽しいことも(苦しいことも?)次々に起こるはずだから、とても全部は覚えていられないということにもなるんだろうけど。起伏の少ない道を歩いているのだから、小さい凸凹も覚えておかないと、ほんと何の思い出もない人生になってしまうのではないだろうか。

ちょっとよかったことを思い出してみる。

・最寄り駅の駅ビルで買い物をした。部屋着がへたってきたので新しいものを購入したのだ。手ごろな商品をもってレジに行って支払いをしてポイントカードを出した。ポイントカードとレシートを受け取り、金額を確かめたらレシートのポイントがやたらたくさんついていた。店員の女性に「これポイント間違ってませんか?」と聞いたら「年末感謝祭でポイント10倍なんですよ」と笑顔で言われた。「そうなんですか。え、10倍?」「はい、今日だけ10倍なんです」10倍しても200円ぐらいなんだけど、10倍って言葉の響きが力強い。とてもうれしかった。

・予約していた病院に向かっている途中に、とおりかかった家の庭の竹垣からのぞいている梅の枝からカサカサ音がするので、何だろうと思って見てみたら、目白が枝の間を行ったり来たりしていた。梅に鶯ではなくて梅に鶯色の目白である。それにしてもあの鮮やかな黄緑色をなんで鶯色というのだろう。どう考えても目白色だと思うのだけど。目白はあの色ももちろんだが、目の周りの白い輪っかや、小ぶりでふっくらした形がとても可愛いらしいので、見かけると得した気持ちになる。

・八百屋でミカン一袋(だいたい8個くらい入っている)398円を買って、家でおやつに食べながら、これっぽちだとすぐ食べきっちゃうんだよな、箱で買おうかな、でも持って帰るの大変だし、ネットで買うか、などと考えていたら、宅配便で親戚からミカンが箱で届いた。ものすごくびっくりした。志賀直哉の『盲亀浮木』を思い出して、「もうきふぼく!!」とすごくでかい声で言ってしまった。そばにいた夫に「は??」と言われた。

ちょっといいことって結構あるものだ。ちゃんと意識して生活しないとだめだな。

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分刻みに 祝福受ける 晴れた午後

 

 

 

 

お金で買える美しさとそれに伴う幸せについて

お題「これ買いました」

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高価な基礎化粧品を買ってしまった。化粧水から乳液からクリームから一式購入したら20,000円近くになった。たっか~と思った。なんだか気が引けたので夫に、高価な基礎化粧品を購入した、すまない、と言ってみた。そうしたら、あんたの金なんだから好きに買えばええのにと言われた。いい奴だ。

今まではドラッグストアで適当に良さそうな化粧品を使っていた。口コミサイト的なところで調べればいくらでも安くて効果が高い商品を探すことができる。いろんな人がこのお値段で信じられない、すごくコスパが良いです、などと激賞しているし、実際に使ってみると、確かにお肌がしっとりしたり、つやっとしたりするので、まあこれで十分だわ、と思っていたのだ。

あれ、と思い始めたのは40の声を聞いたあたりからだ。ある寒い日に屋外の手洗いに行った。屋外なので照明が薄暗い。手を洗ってふと鏡で自分の顔を見て本当に驚いた。

顔が灰色なのだ。

え、と思って思わず鏡をこすってみた。鏡が少しきれいになったので、私の灰色の顔がさらにくっきりと映った。灰色の肌に濃灰色のそばかすが浮かんでいる。

その後室内で暖まったら顔色は灰色ではなくなったけど、それ以来なんだか顔がどんより曇って薄暗く感じるようになった。まあ、性格も薄暗いからちょうどいいか、と思えるほどには達観していなかったので、それからはスキンケアに気を使うようになった。化粧水、乳液、クリームまでしっかりお肌に塗るのだ(それまでは化粧水しか使っていなかった)。少しマシになったような気がしたけど、大きな改善は見られない。もう仕方ないのか、老化現象だしね、これが生物としての自然な姿だよ、などと思ってみたけれど、やはり煩悩を捨てきれないので、美容情報をいろいろチェックするようになった。

ある時、高価な化粧品会社がお試し価格でお試しセットを販売していた。あ、この値段だったらいいや、と思って買ってみた。

びっくりした。

肌が美しくなったのだ。私は今まで「肌が美しい」ということを正確に理解していなかった。時々電車などでとても肌の美しい人を見かけるが、その美しさはあくまで鑑賞する対象物にすぎない。実際にその肌を自分の骨格と筋肉の上に纏うというのはどういうことかわかっていなかったのだ。今までの私の肌は暗くしぼんでかさかさしていた。今の私の肌は明るく張りがあって潤っている。そう、この美容関係の諸々で頻繁に目にするキーワード、肌が「明るい」「張りがある」「潤う」というのがどういうものなのかを実体験として納得することができたのがなによりの収穫である。肌を認識する際の解析度が格段にアップした感覚がある。

この化粧品を使い続けたい、と強く思った。

というわけで、高価な基礎化粧品を購入したのだった。そして私は毎日あー肌が美しくなった、とうっとりしている。ただし、あくまで当社比なので、同居人たちに「私の肌はとても美しくなったと思う」と申告しても「そう??」という反応だ。確かに私の顔を一番よく見るのは他ならない私自身なので、他の人が見ても気づかないに違いない。他人は人の顔なんてそんなしっかり見ているものではない。でも他ならない私自身は毎日鏡を見るたびに幸せなのだ。私が私を幸せにするのだから、よい買い物をしたと思う。

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砂の数ほどの 美しさのうち ひとつだけ

 

日々これ工夫なりレシピ

お題「こだわりレシピ」

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 毎日のこととはいえ、いや違った、毎日のことだからこそ、日々の夕食の献立を考えるのは億劫なことです。とりわけ憂鬱なのが、職場から帰宅中にうつろな頭で今朝の冷蔵庫の中身を反芻しながら、大根と油揚げがあったからみそ汁の具は大丈夫、あと冷凍した鶏もも肉と先週の特売で買った1パック98円の卵が大量にあるから親子どんぶりでいいか。いや、親子どんぶりは2日前に作ったか。それならオムライスにするか、でも今日の給食チキンライスだったような気がする。まあいいか。いやまて、そもそも玉ねぎを切らしていた気がする。途中でOKストアに寄って買っていくか、それならいっそチキンカレーにするか、チキンライス作って卵で包むの面倒だしな。というようなことを延々考え続けることです。ともすれば帰宅中だけじゃなくて仕事中にも考えている。

 毎日の献立立案およびそれに基づいた夕食作成を気の重いものにしているのは、時間と食材という二つの制約です。確か神田うのさんだったと思うのですが、新婚当時の生活を密着取材していたバラエティー番組で、家事は嫌いだからしないけど料理だけは別、なぜなら料理はアートだから、と発言していて、あらまあ、時間と食材(を自由に調達できるだけの資本)がある人は良いですね、と静かにチャンネルを変えたのでした。私は大変気のいい働き者ですが、イカしたストッキングをヒットさせる商才もありませんし、私の夫もとてもおおらかないい奴ですが、年商億を稼ぐ社長でもありませんから、与えられたものでやるのみです。私にとって料理はアートではなく現実から生まれる日々の工夫です。

 さて、そんな私が日々の工夫から開発したレシピを紹介したいと思います。

 

☆☆ポテトサバダ☆☆

①玉ねぎときゅうりを薄切りにして塩もみします。

②ジャガイモをレンチンでふかし、荒くつぶして熱いうちに塩コショウをします。

③①と②を混ぜてマヨネーズで味付けします。

④③汁気をきったサバの水煮缶を加えて軽く混ぜます。

 

 ポテトサラダには、動物性タンパク質であるハムや卵がよく使われますが(チーズやツナなんかもたまに聞きます)、それをサバ缶にしたものです。ジャガイモがサバのうま味を吸収して驚くほど美味であるのみならず、サバのタンパク質、カルシウム、おまけに頭が良くなるDHAで栄養面もばっちり。育ち盛りのお子様にもぴったりの素晴らしい一品です。ちなみにサバダは誤字ではありません。悪しからず。

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ポテサラを 作りて今日も じっと手を見る

 

嗜好品としてのポテトチップス

お題「大好きなおやつ」

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好きなおやつといえば一番に思いつくのはポテトチップスです。

ポテトチップスは薄切りのジャガイモを水にさらして素揚げして作りますが、

それとは別に、マッシュしたジャガイモを丸く成型して焼いたタイプのものもあります。

今調べたら、これは成形ポテトチップスと呼ばれるそうで、ジャガイモはマッシュしているのではなく、フレーク状にして、そこに調味料などを加えて作るそうです。

この成形ポテトチップスで真っ先に頭に浮かぶのは、ヤマザキの「チップスター」と「プリングルズ」ですが、「プリングルズ」を販売していたP&Gは、嗜好品の税率を高く設定する軽減税率の政策を採用しているイギリスにおいて、「プリングルズ」は「ポテトチップス」ではない(=嗜好品ではない)と主張して裁判まで起こしたそうです。(最終的に敗訴しています。)裁判所でなくても、あれがポテトチップスでなければいったい何なんだと聞きたくなります。いくらなんでも無理があるのではないでしょうか。

さて、私が好きなのは断然素揚げしたタイプのものです。味はシンプルにうすしおで、熱い緑茶と一緒に食べるとおいしさもひとしおです。食べだすと止まらないのでこれはさすが立派な嗜好品です。

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秋夜長 ポテトチップスと 文庫本

 

 

『ワイルドバンチ』について

お題「ゆっくり見たい映画」

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ワイルドバンチ』(原題: The Wild Bunch)を初めて見たのはいつだったか。

新宿の職場に勤めていた時に、新宿紀伊国屋書店本店から道路を挟んで斜向かいにあったTUTAYA新宿店(確か「新宿店」だったはず・・・。今はもう閉店しているらしい。)でビデオ(DVDではなくて、まだビデオ。私はテレビデオ(!)で視聴していた。)をレンタルしたので、もう25年近く昔のことだ。敬愛する小説家が、悪い奴しか出てこない映画、と紹介していて、俄然気になって、借りてきたのである。見てみたら本当に登場する奴らがどいつもこいつも悪くてイカしていた。男を見たら撃て、女を見たら抱け、仲間を見たら裏切れ、てなもんである。ほんとかっこいい。ラスト近くの銃撃戦が大変有名だが、連射される銃弾を浴びると人は本当にあんな風になるのか、どうなのだろう。私は200人が優雅に「死のバレエ」を踊るあの銃撃戦をもう一度ゆっくり見てみたい。

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暴力を 洗練する手管の 繊細さ

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